日本小児遺伝学会の理事長を拝命して
前々理事長の小﨑健次郎先生(慶應義塾大学医学部臨床遺伝学センター・教授、センター長)、前理事長の黒澤健司先生(神奈川県立こども医療センター遺伝科・部長[現、国立成育医療研究センター遺伝診療センター・センター長])をはじめ日本の小児遺伝学を築いてこられた数々のレジェンドの先輩方のバトンを受けて、2024年4月に日本小児遺伝学会理事長を拝命いたしました。歴史ある大切で大好きなコミュニティの運営を担当させていただき、とてもうれしく光栄に感じています。
私自身、主な臨床現場である信州大学医学部附属病院遺伝子医療研究センターでは、エーラス・ダンロス症候群を中心とした遺伝性・先天性疾患のある成人患者様、長野県立こども病院遺伝科を卒業した成人患者様、遺伝性腫瘍など成人疾患のある患者様の診療や出生前診断など周産期遺伝カウンセリングを行うことがメインになっておりましたので、小児遺伝医療の“ど真ん中”である小児病院遺伝科で長く活躍してこられた東京都立小児総合医療センター遺伝診療部・部長の吉橋博史先生を副理事長にお迎えしました。吉橋副理事長は、慶應義塾大学小児科でともに汗を流した同門の仲間です。大会長をつとめた第47回学術集会のテーマ「紡ぐゲノム医療:多様なこどもと家族のウェルビーイングをめざして」にありますように、常にこどもさん・ご家族ファーストでゲノム医学の進歩を役立ててこられ、全国の若手小児遺伝科医の人望も厚いです。吉橋副理事長、理事および各種委員会委員長・委員の先生方、そして全ての会員の皆様とともに本任期を丁寧に、かつ大胆につとめてまいります。
さて、日本小児遺伝学会はどのようなコミュニティなのでしょうか?会則を見ますと、まず「本会は、日本小児科学会の分科会であり、日本小児遺伝学会 The Japan Society of Pediatric Genetics と称する」(第1章【名称】、第1条)とあります。続いて、「本会は、小児遺伝学に関する学術研究の発展をはかるとともに、会員相互の親睦、連帯により医療と福祉の向上に寄与することを目的にする」(第2章【目的及び事業】、第2条)、そして「前条の目的を達成するために、次の事業を行う。1. 総会および学術集会 2. 知識普及のための啓発活動 3. その他本会の目的達成のために必要な事業」(第2章【目的及び事業】、第3条)と続きます。
「小児遺伝医療および対象となる疾患のあるこどもたちの福祉の向上ために行動すること」「すなわち「「遺伝性・先天性疾患のあるこどもたちが生き生きと暮らせる社会を目指して行動すること」が本会のミッションであり、「そうした行動をする(したい)人」はすべて本会会員として歓迎いたします。日本小児科学会分科会であることから、遺伝科をサブスペシャリティーにしている小児科医および遺伝性・先天性疾患のあるこどもの診療・支援・研究に興味を持つ小児科医が中心になりますが、裾野は広く入会のハードルは低くしていけたらと思います。遺伝性・先天性疾患のあるこどもの診療・支援に興味を持つ認定遺伝カウンセラー、歯科医師、看護師、遺伝学的検査専門家、福祉・行政関係者など、また小児期発症の遺伝性・先天性疾患に関する基礎研究者の方々にも気軽に学術集会に参加していただき、そして気に入ってくだされば入会をご検討いただけると嬉しいです。
日本小児遺伝学会の理事長として、任期中に推進していきたいことを以下に示します。
1)様々なバックグラウンドを持つ若手・中堅会員が伸び伸び活躍する学会へ!
これまでの本学会は「小児科各領域の遺伝性疾患のエキスパート小児科医による最先端のコミュニティ」といった雰囲気があったように思います。今後は、「遺伝性・先天性疾患のあるこどもの診療・支援に興味を持つあらゆる職種の方々が気軽に入れるコミュニティ」という広く優しい間口でありたいと思います。このために委員会の構成を思い切って若返らせました。また吉橋副理事長の提案で、小児遺伝医療を小児遺伝科医とともに担っている認定遺伝カウンセラーの皆様が自律的に活動できるコミュニティとして、アドホック委員会「遺伝カウンセリング推進委員会」を設立しました。東京都立小児総合医療センター遺伝診療部の伊藤志帆認定遺伝カウンセラーを初代委員長にお迎えし、各地の小児病院遺伝科で活躍してきた認定遺伝カウンセラー7名で構成する画期的な委員会です。早速第47回大会では、シンポジウム「こどもと家族のライフステージをともに歩む〜認定遺伝カウンセラーの役割〜」と小児領域に興味を持つ遺伝カウンセラー養成コースの学生や初学者向けの特別企画「こども遺伝ペディア(Kodomo Iden Pedia:KIP)」が企画されました。
2)小児科サブスペシャリティーとしてのidentityを確立する!
遺伝性・先天性疾患のあるこどもの診療・支援に興味を持つ小児科医は少なくないとの印象を持っています。そうした小児科医が不安なく遺伝をサブスペとして選んでもらえるような仕組みを築けたらと思います。そのためには、「私のサブスペは遺伝です」と堂々と言える文化を醸成すること、小児科医が小児遺伝学に関する一定の知識やスキルをストレスなく身につける仕組みを構築することが必要と考えます。例えば小中学生に「“いでんかの先生”って何するの?」と聞かれたら、「ダウン症など生まれつきの病気のあるこどもたちの健康を守るお医者さんだよ」とシンプルに答えてみてはいかがでしょうか。
3)施設をこえた活動を展開する!
これまで施設をこえた共同活動はあまりされてこなかったように思います。最近東京都立小児総合医療センター遺伝診療部遺伝診療科医長・二川弘司先生らが展開している先天異常症候群をもつ子と家族の支援システムGENIEプロジェクト(https://genie-peer.jp)は、遺伝性・先天性疾患のある患者様・ご家族と医療者が連携して疾患情報・家族・医療機関がつながる画期的な施設横断的プロジェクトとして注目されます。また、小児病院遺伝科を中心に築かれてきた遺伝性・先天性疾患のあるこどもたちの自然歴情報は本学会の貴重な財産と言えるでしょう。今後、若手・中堅の小児遺伝科医が主体的に、様々な遺伝性・先天性疾患の自然歴調査を多施設共同臨床研究として行っていくことを期待しています。各人のキャリアアップにつながるとともに、活動を国内外に向けて発信することを通じた本学会のプレゼンス向上にも貢献することでしょう。さらに、定期的なdysmorphologyオンラインカンファレンスを提案したいと思います。これは、遺伝をサブスペとした(したい)小児科医を対象に、未診断の患者様の原因検索に関してオンラインでざっくばらんに本学会のエキスパートに相談できる試みです。候補疾患を提示し、それに基づき最適な遺伝学的検査を提案、それで解決できない場合には網羅的遺伝子解析につなげます。論文化できれば関わる皆を共著にしてその貢献に報います。貴重な患者様の原因検索を系統的に行うことで診療的にも研究的にも役立つとともに、遺伝をサブスペとする小児科医が孤立しないようにする試みでもあります。
どうぞよろしくお願いいたします。
理事長 古庄 知己
