頭部と顔
頭蓋 (CRANIUM)
短頭 Brachycephaly#
定義頭長幅指数 (cephalic index)が 81%以上である場合 (客観的) (図 5)。 または前後径が幅に比較して短い場合 (主観的)。
コメントcephalic index とは頭長に対する頭幅の百分率である。正常値は 76~80.9%とされる。頭長は眉間と正中線上で後頭部最も突出している部分の距離である。棹状計 (ノギス)により測定する。頭幅は頭頂骨の外側で最も突出した部分の距離である。桿状計により測定する。上記の正常値は白人を対象として得られた値であり,他の人種における有用性は限定的である。また近年,うつぶせ寝が推奨されなくなったことから,頭蓋の形態に変化が生じている可能性があり,現行の標準値の妥当性も不明である。新たな標準値の検討が必要である。短頭は,後頭部の平坦化 (Flat occiput)とは異なるが,両者は併存することがあり,別々に記載されるべきである。
長頭 Dolichocephaly#
定義頭長幅指数 76%以下 (客観的) (図 6)。明らかに頭の前後径が横径に比較して増加している状態 (主観的)。
コメント(短頭のコメントと同様。以下,相違点)長頭 (Dolichocephaly)は著明な後頭部 (Prominent occiput)とは区別されるべきである。長頭と著明な後頭部は併存することもあり,別々に記載されるべきである。舟状頭とは,長頭の亜型であり,前頭部分と後頭部分が尖っている状態を指す (小舟の形)。
巨頭症 Macrocephaly#
定義後頭前頭を結ぶ周囲径が年齢や性別を合わせた標準値の 97%より大きい (客観的) (図 7)。明らかに頭が大きい (主観的)。
コメント頭囲は眉間 (鼻根部より上部で前頭骨上,最も前に突出している部分)から後頭部の後頭骨上,最も後ろに突出している部分を巻き尺で測定する。標準値の表としてはパーセンタイル値にもとづいて編纂されたもの[Hall ら,2007]や標準偏差値に基づいて編纂されたものがある。いずれの基準を使用するにしても,標準に比較してどの程度,頭囲が大きいかということを数値化して表現することが重要である。巨頭症というのは原則として絶対的な基準にもとづいて定義される数値である。頭囲が身長におけるパーセンタイル値をこえるとき「相対的大頭症」という用語が用いられることがある。たとえば,頭囲が 75%タイルであるのに,身長が 5%タイルであるとき。
同義語頭囲の拡大 (Head circumference, enlarged;OFC,large)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Macrocranium
小頭症 Microcephaly#
定義後頭前頭を結ぶ周囲径が年齢や性別を合わせた標準値の 3%より小さい (客観的) (図 8)。明らかに頭が大きい (主観的)。
コメント頭囲は眉間 (鼻根部より上部で前頭骨上,最も前に突出している部分)から後頭部の後頭骨上,最も後ろに突出している部分を巻き尺で測定する。標準値の表としてはパーセンタイル値にもとづいて編纂されたもの[Hall ら,2007]や標準偏差値に基づいて編纂されたものがある。いずれの基準を使用するにしても,標準に比較してどの程度,頭囲が小さいかということを数値化して表現することが重要である。小頭症というのは原則として絶対的な基準に基づいて定義される数値である。頭囲が身長におけるパーセンタイル値をこえるとき「相対的小頭症」という用語が用いられることがある。たとえば,身長が 75%タイルであるとき頭囲が 3%タイルである。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Microcranium
後頭部扁平 Occiput,flat#
定義後頭部の曲率半径の減少 (主観的) (図 9)。
コメント後頭部の曲率半径の増大により頭蓋骨の背面が平坦化した印象を与える。後頭部の曲率半径に関する客観的な指標は存在ぜず,評価は観察者の経験に依存する。
「後頭部扁平」という所見は短頭 (Bra-chycephaly)と併存する場合がある (別々に記載されるべきである)。乳児が仰向けに寝かされていたときに「平坦な後頭部」になりやすい。
後頭部突出 Occiput,Prominent#
定義後頭部の曲率半径の減少 (主観的) (図 10)。
コメント後頭部の曲率半径の減少により頭蓋骨の背面が平坦化した印象を与える。後頭部の曲率半径に関する客観的な指標は存在ぜず,評価は観察者の経験に依存する。「後頭部突出」という所見は長頭 (Dolichocephaly)と併存する場合があるが,異なる所見として別々に記載されるべきである。
斜頭 Plagiocephaly#
定義非対称な頭蓋の形態。多くの場合,片側性の後頭部の平坦化と対側の前頭部の突出により菱形の頭蓋となる (主観的) (図 11)。
コメント斜頭により後頭骨のみが影響を受ける場合もありうる。
クローバー様頭蓋 Skull,Cloverleaf#
定義正面ないし後方から見たときに,頭蓋が三葉構造に見える状態 (主観的) (図 12)。
三角頭 Trigonocephaly#
定義楔形あるいは三角形の頭蓋。三角形の頂部は前頭の正中部で,三角形の底辺は後頭部である (主観的) (図 13)。
コメントこの形態は観察者が上方より観察したときに明確になる。
塔状頭 Turricephaly#
定義前後径や横径に比較して高さが高い場合を指す (主観的) (図 14)。
コメントこの所見は「高い前額部 (tall forehead)」という所見とオーバーラップするか,または,「高い前額部」という所見を含むと考えられていた。塔状頭は,頭が高い (主観的)うえに,前後径と横径の両方が減じている (客観的)ときに使われる用語である。頭長は眉間 (鼻根部より上部で前頭骨上,最も前に突出している部分)と正中線上で後頭部最も突出している部分の距離である。桿状計により測定する。頭幅は頭頂骨の外側で最も突出した部分の距離である。桿状計により測定する。上記の正常値は白人を対象として得られた値であり,他の人種における有用性は限定的である。尖状頭 (acrocephaly)という用語は塔状頭 (turricephaly)があり,かつ頭蓋骨の頂部が円錐型になっている場合につかう用語である。
前頭部禿頭 Frontal Balding#
定義前面正中部および後頭部の毛髪の欠損 (主観的) (図 15)。
上向きの毛髪 Hair,Frontal Upsweep#
定義前頭部毛髪が上向きないし横向きに生えている状態 (主観的) (図 16)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Cowlick (状況によっては軽侮的な表現となる)。
旋毛の数の異常 Hair Whorl,Abnormal Number#
コメント多くの場合,頭皮上,正中部を少し離れたところに 1 か所に 1 個の右向きの旋毛がある。ときに頭頂にある場合がある。人口の 5%に2個の旋毛がある (図 17)。人口の 10%で旋毛の向きが左向きである。
旋毛の位置異常 Hair Whorl,Abnormal Position#
定義旋毛が,頭頂近傍,傍正中部という正常の位置とは異なる部位からに存在する (客観的) (図 18)。
コメント旋毛の位置については,後頭・頭頂が中心を外れているなどの表現で記載される。旋毛の位置についても記載される。人口の5%が2つの旋毛をもつ。
毛髪線高位 Hairline,High Anterior#
定義毛髪線と眉間の距離が正常の 2 SD 以上である (客観的) (図 19)。明らかに毛髪線と眉間の距離が長い (主観的)。
コメントこの計測は桿状計 (ノギス)を用いて行われる[Farkas,1981]。 この特徴を有すると前額が高く見える (tall forehead)。側頭部の毛髪の減少を伴うこともある。高い前額は,男性における禿頭と区別が可能な場合がある。毛髪線は筋を含む前額部より高位にあるためである。筋を含む部分は表情の動きにより皺ができるが,頭皮には皺が出ない。また,頭皮の皮膚を前額部の皮膚は質感が異なる点から区別が可能である。
低い前頭毛髪線 Hairline,Low Anterior#
定義毛髪線と眉間の距離が正常の-2 SD 以下である (客観的) (図 20)。明らかに毛髪線と眉間の距離が短い (主観的)。
コメントこの計測は桿状計 (ノギス)を用いて行われる[Farkas,1981]。
この所見は前額部が狭い印象を与える。前額部の多毛と区別されるべきである。後者では,毛髪は側方に生えている。また,この場合に生えている毛髪の質感と密度は頭皮の毛髪とは異なる。
後頭部毛髪線低位 Hairline,Low Posterior#
定義後頸部の皮膚が通常よりも下方に伸びている (主観的) (図 21)。
コメントこの所見は小児期後期によく認められる。後頸部の皮膚にたるみのあった小児の頸部が延長するにつれて目立つようになるためである。後頭部毛髪線低位と後頸部の皮膚のたるみは区別して記載されるべきである。
疎な頭髪 Scalp Hair,Sparse#
定義単位面積当たりの毛髪数の減少 (主観的) (図 22)。
コメントHypotrichosis という記載法は推奨されない。語義として毛髪の低形成を示すが,実際に低形成であるかどうかは不明だからである。単位面積当たりの毛髪数の正常値は存在しない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語薄い頭髪 (Scalp hair,thinning;Scalp hair,thin)
いわゆる富士額 Widow's Peak#
定義前額正中部で左右の弓状の前額毛髪線が交わり,さらに下方へ向かう (主観的) (図 23)。
コメント毛髪を後ろにたくし上げると,この所見はわかりやすいかもしれない。18 世紀の英国では,寡婦 (widow)は黒い帽子を被ることになっており,帽子には 3 角形が付いており,その頂点は正中線上で下方を向いていた。
顔(FACE)
幅広い顔 Face,Broad#
定義頬骨弓間距離(顔面上部)と顎角点(ゴニオン,下顎体下縁と下顎枝講演が移行する部位のうち,最も外側の点)の両方が正常集団の 2 SD より大きい(客観的)(図 24)。幅広い顔顔面上部と顔面下部の両方の幅が大きい(主観的)。
コメント顔の幅の測定には桿状計が用いられる。桿状計の先端は頬骨弓に当てる。顔面下部の測定も桿状計を用いて行われ,桿状計の先端は下顎角の下内側面に当てる[Farkas,1981]。幅広い顔は丸い顔(Round face)とは区別される。
粗な顔 Face,Coarse#
定義顔は丸みを帯び,濃い皮膚のために,眉間や鼻,口唇,口,下顎などの構造物がはっきりとしなくなる。皮下組織や骨組織の肥厚を伴うこともある(主観的)(図 25)。
コメントこの用語は印象や形態を想起させるバンドル語である。しかしながら,きわめて有用な用語である。人によっては「粗な顔」という表現を軽侮的と感じる人もいるかもしれない。
同義語Lineaments,coarse;Features,coarse
表情のない顔 Face,Expressionless#
定義鈍い表情と同義である。ここでは解剖学的な所見というよりは機能的な所見として捉えられている。
平坦な顔 Face,Flat#
復元した項目
定義側面から見たとき凹凸の欠損(主観的)(図 26)。
コメント有用なガイドは眉間と下顎の最も前面の部分を結んだ線が人中の最上部と交差する状態を想起することである。もし人中の上部が上記の垂直線よりも前にあれば,顔面は「凸」であるといえるし,この線よりも後ろであれば,顔面は「凹」であるといえる。
筋緊張の低下した顔貌 Face,Hypotonic#
備考この用語は解剖学的というよりは機能的な用語である。この所見は,単一の客観的な所見というよりは,他の複数の所見が重なって得られる結論であるといえる。すなわち,鼻唇溝が浅い,外側の眼窩上縁の皮膚のたるみ,眼瞼下垂,常時の開口位,顔面の表情の低下などによる。
長い顔 Face,Long#
定義顔面の高さ(長さ)が平均値の 2 SD 以上である(客観的)(図 27)。
コメント顔の高さの測定は桿状計(ノギス)を用いて行われる。ナジオン(鼻根部の最も深い点)からグナシオン(下顎骨の下端)までを正中線上で測定する[Farkas,1981]。長い顔は狭い顔(Narrow face)とは区別される。
細い顔 Face,Narrow#
定義顔面上部と顔面下部(ゴニオン間の距離)がともに 2 SD 未満(客観的)(図 28)。顔面の上部および下部とも狭い(主観的)。
コメント桿状計(ノギス)で計測する。先端は頬骨弓を越えて最大長となる部分まで計る。 顔面下部の測定も桿状計を用いて行われ,桿状計の先端は下顎角の下内側面に当てる[Farkas, 1981]。細い顔は長い顔(Long face)とは区別される。
老人様顔貌 Face,Prematurely Aged#
備考この用語の使用は避けることとする。というのも,この所見は薄い皮膚,静脈の透見,皮下脂肪の欠如,皺の過剰,色素性の変化などの所見を総合したものだからである。
丸い顔 Face,Round#
定義正面から見たときに通常より丸みを帯びた顔である状態(主観的)(図 29)。
コメント幅の広い顔(Broad face)に丸みを帯びた頬がある場合には,丸い顔は長くかつ幅広く見える。
短い顔 Face,Short#
コメント顔の高さの測定は桿状計(ノギス)を用いて行われる。ナジオン(鼻根部の最も深い点)からグナシオン(下顎骨の下端)までを正中線上で測定する[Farkas,1981]。短い顔は幅広の顔(Wide face)とは区別されるべきである。
小さな顔 Face,Small#
備考この用語は使用しない。というのは狭い顔(Narrow face)と短い顔(Short face)の両方があるとき,「小さな顔」となるからである。
四角い顔 Face,Square#
定義正面から見たとき,この輪郭が顔面上部/頭蓋および顔面下部/下顎で広いとき,四角い顔貌に見える(主観的)(図 31)。
コメント四角い顔のあるときは顔面下部のほうが広いことが多い(ゴニオン間の距離が正常群の 2 SD 以上)。幅広い下顎(Broad jaw)では顔面所下部の横幅が顔面上部の横幅より広い。
三角形の顔 Face,Triangular#
定義正面から見たとき,両側頭を底辺とし,狭い下顎を頂点とする顔面が三角形に見える(主観的)(図 32)。
コメントこの特徴は狭い下顎(Narrow jaw)とは区別される。
幅広い前額部 Forehead,Broad#
定義前額すなわち frontotemporales の距離が人口集団の 2 SD をこえる(客観的)(図 33)。前額の幅の増加(主観的)。
コメントfrontotempralis とは,眼窩上縁の側面の陥凹部を指す。本用語と「目立つ前額(promi-nent forehead) →訳注:上下方向の距離を論じている」を混同しないこと。
狭い前額部 Forehead, Narrow#
定義前額部すなわち frontotemorales の距離が人口集団の 2 SD をこえる(客観的)(図 34)。水平方向に狭い前額を指す(主観的)。
コメント前頭側頭は眼窩上縁の垂直な部分のすぐ外側で少しくぼんでいる。ノギスの先端をこの部分の最も凹んだ部分に当てて測定を行う[Farkas, 1981]。
同義語Bitemporal narrowing, Intertemporal narrowing
目立つ前額部 Forehead,Prominent#
定義前頭骨の突出により,前額部全体が目立つ状態を指す(主観的)(図 35)。
コメント本所見は Frontal bossingと同義ではない(後述)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Forehead, bulging
Forehead, Sloping#
定義前額の前面の傾斜が一般集団の 2 SD よりも大きい(客観的)(図 36)。側面からの観察により明らかに前額が極端に傾斜している(主観的)。
コメント計測のためには分度器が必要。頭部をフランクフルトの水平面に保った状態で,前頭正中部に分度器を置き,眉間と毛髪線を結ぶ線と垂線との角度を測定する[Farkas,1981]。
額部の垂直な皺 Forehead Creases,Vertical#
定義前額正中部の軟部組織の垂直の皺。しばしば毛髪線から眉毛まで伸びており,表情に依存して出現する場合がある(主観的)(図 37)。
前額部の突出 Frontal,Bossing#
定義前頭骨側方の両側性の前方への突出。正中部の突出はあまり目立たない(主観的)(図 38)。
コメントこの所見は目立つ前額(Prominent forehead)とは区別して使用される。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Forehead, bulging
眉間の陥凹 Glabella,Depressed#
定義両側の眼窩上縁の間の前額正中部の後方への変位(主観的)(図 39)。
コメント眉間は両側の眼窩上縁の間の正中線上の領域で,鼻根部の上方である。ここでいう「陥凹した」というのは能動的に陥凹したという意味ではなく,「陥凹して見える」状態を指す。
目立つ眉間 Glabella,Prominent#
コメント眉間とは両側の眼窩上縁の間の正中線上の領域で,鼻根部の上方の領域のことである。
前額正中部の陥凹 Metopic Depression#
定義前額正中部の線状の垂直な溝を指す。毛髪線から眉間まで伸びる(主観的)(図 41)。
コメント皮下の骨には異常はない(meto-pism)。
目立つ前頭隆起 Metopic Ridge,Prominent#
定義前額部正中部の垂直な骨性の隆起(主観的)(図 42)。
コメント骨性の隆起は毛髪線から眉間まで達することもあるが,部分的なこともある。
同義語目立つ前頭縫合(Metopic suture, prominent)
目立つ眼窩上縁 Supraorbital ridges,Prominent#
定義前頭骨の眼窩上縁部分が前方または側方に突出し,目立つ状態(主観的)(図 43)。
コメント前頭骨の眼窩上縁部分が肥厚している必要はない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語眼窩上縁の過形成(Supraorbital ridges,hyperplas-tic;Brows,prominent)
眼窩上縁の低形成 supraorbital ridges,Under-developed#
定義前頭骨の眼窩上縁が平坦な状態(主観的)(図 44)。
同義語平坦な眼窩上縁(Supraorbital ridges, flattened)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Supraorbital ridges,hypoplastic;Brows,underde-veloped
目立つ頬骨部 Cheekbone Prominence#
定義側頭骨の頬骨突起(眼窩の内側および外側下部を形成)が大きい(主観的)(図 45)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Zygomatic hyperplasia
頬骨部の低形成 Cheekbone Underdevelopment#
定義側頭骨頬骨突起に相当する顔面頬骨部が小さい(主観的)(図 46)。
同義語平坦な頬骨部(Cheekbone,flat;Zygo-matic underdevelopment)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語頬骨低形成(Zygomatic hypoplasia)
目立つ頬部 Cheeks,Full#
定義頬骨弓と下顎骨の間の軟部組織が目立ち,丸い印象を与える(主観的)(図 47)。
落ちくぼんだ頬部 Cheeks,Sunken#
定義頬骨弓と下顎骨の間の軟部組織が少なく見える(主観的)(図 48)。
頬部の平坦化 Malar Flattening#
定義上顎の頬骨突起部の低形成。側面からの観察や触診によってわかりやすい(主観的)(図 49)。
コメント上顎骨の頬骨突起は上顎骨の最も内側で上方に位置し,鼻背部の外側部分と連続する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語頬部低形成(Malar hypoplasia)(表面からの診察によっては低形成か萎縮かを区別することはできない)
目立つ頬部 Malar Prominence#
定義上顎骨の狭骨突起と眼窩下縁の領域が目立つ。側面および正面からの観察によって評価しやすい(主観的)(図 50)。
コメント頬骨前突起(Malar process)は上顎骨の最も内側で頭側の部分であり,鼻橋部(nasal bridge)の外側縁をなす。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Malar hypertrophy;malar hyperplasia
顔面中部突出 Midface Prominence#
定義眼窩下縁と鼻翼周辺の領域が前方に突出している状態(主観的)(図 51)。
コメントこの用語は上顎骨が大きいことを反映する。上顎骨が上下方向に高い場合と奥行きが深い場合とがある。下顎骨の大きさが正常であれば,下顎後退のようにみえる可能性がある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Midface hyperplasia;Midface hypertrophy
顔面中部後退 Midface Retrusion#
定義眼窩下部および鼻翼の領域が後退しているか垂直方向に短縮しているときに起きる(主観的)(図 52)。
コメントこの用語は上顎の高さないし深さが小さいことを示している。下顎の大きさが正常であるときは,顔面中部の低形成は下顎突出の印象を与える。歯牙を欠く患者において顔面中部の後退に見えるときがあるので注意を要する。これは平坦な顔(Flat face)とは異なる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語midface hypoplasia
目立つ鼻唇溝 Nasolabial Fold,Prominent#
定義鼻の外側を走る鼻唇溝(鼻根部が顔面の皮膚と合する部分であり,口角より少し外側の部分に達する溝)が目立つ場合である(主観的)(図 53)。
コメント鼻唇溝は加齢とともに目立つようになるのが通例である。
同義語Nasolabial crease,prominent
鼻唇溝の低形成 Nasolabial Fold,Underdeveloped#
定義鼻の外側を走る鼻唇溝が目立たない場合である(主観的)(図 54)。
同義語Nasolabial crease,underdeveloped
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Nasolabial crease,hypoplastic;Nasolabial fold, hypoplastic
目立つ前上顎部 Premaxillary Prominence#
コメント前上顎部が目立つ結果,その上層に存在する鼻・人中などの構造物が目立って見える場合がある。顔面が全体として前方に突出する。もし下顎の大きさが正常であるとき,下顎後退としてとらえられるかもしれない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Premaxillary hyperplasia
前上顎部の低形成 Premaxillary Underdevelopment#
コメント前上顎部の低形成の結果,その上層に存在する鼻・人中などの構造物が平坦に見える場合がある。顔面の中央部分が陥凹して見える。下顎の大きさが正常である場合には,下顎が突出して見えることがある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Premaxillary hypoplasia
下顎(MANDIBLE)
幅の広い下顎 Jaw,Broad#
定義顎角点間距離(下部顔面の幅)が一般人口の 2 SD をこえる場合(客観的)(図 57)。下部顔面の幅が広い(主観的)。
コメント下顎の大きさは左右の顎角点の距離により測定される。顎角点とは下顎体下縁と下顎枝後縁が移行する部分のうち,最も外側に突出する点である。顎角点は下方・内側に向かっており,皮膚を徐々に下方かつ内方にずらして触診することで同定することができる[ Farkas,1981]。幅の広い下顎(下部顔面)に幅の広い上部顔面を合併する場合は「四角い顔(Square face)」と表現される。
同義語幅の広い下顎(Jaw,wide;Mandible, broad;Mandible, wide;Lower face, broad; Lower face,wide)
狭い下顎 Jaw,Narrow#
定義顎角点間の距離が-2 SD 以下(客観的)(図 58)。正面から見た場合に下顎が狭い(主観的)。
コメント左右の顎角点間の距離を測定する。顎角点とは下顎体下縁と下顎枝後縁が移行する部分のうち,最も外側に突出する点である。顎角点は下方・内側に向かっており,皮膚を徐々に下方かつ内方にずらして触診することで同定することができる[Farkas,1981]。
同義語狭い下顎(Mandible,narrow),狭い顔面下部(Lower face,narrow)・Jaw,small:Micrognathiaを参照
参照- Jaw,wide→Jaw,broad
- Lower face,broad→Jaw,broad
- Lower face,narrow→Jaw,narrow
- Lower face,wide→Jaw,broad
- Mandible,broad→Jaw,broad
- Mandible narrow→Jaw,narrow
- Mandible,wide→Jaw,wide
下顎裂 Mandible,Cleft#
定義下顎骨正中部ないしその表面の軟部組織の欠損(客観的)(図 59)。
小顎症 Micrognathia#
定義正面から見たときに下顎の高さと幅が小さい状態(主観的)(図 60)。
コメントこの用語は下顎の高さと幅の両方が小さいことを指す点から,バンドリング用語であると考えられる。バンドリング用語は避けることが原則であるが,頻用される用語であるので掲載した。
同義語Micrognathism;Jaw,small・Micrognathism:小顎症(Micrognathia)を参照
下顎前突 Prognathism#
定義下顎の歯槽が上顎の歯槽よりも前方に突出した状態。側面から見たときに判断しやすい(主観的)(図 61)。
コメント観察者は下顎の前方突出と前上顎部の低形成(Underdeveloped premaxilla)ないし,顔面中部の陥凹(Retruded midface)を区別しなければならない。いずれの場合にも ClassⅢの不正咬合を伴うことがある。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Habsburg chin;Hapsburg chin;Habsburg jaw; Hapsburg jaw
下顎後退 Retrognathia#
定義側面から観察した時に下顎が後方に偏位している(主観的)(図 62)。
コメントこの所見は小顎症(microretrog-nathia)を伴う場合がある。所見としては小顎症と下顎後退の両方を記載すべきである。この所見が下顎と前上顎の相対的な位置関係の異常によりもたらされていることがある。すなわち下顎の大きさは正常だが,不正咬合が目立っていることがある。
同義語Chin,retruded;Mandible,retruded; Retrognathism・Retrognathism:Retrognathiaを参照
オトガイ(頤)(CHIN)
幅広いオトガイ Broad chin#
定義下顎正中部および表面の軟部組織が目立つ(主観的)(図 63)。
コメント小顎症は下顎の高さと幅の両方が減じているときに使用される用語である。
オトガイの大きさが大きいときは高いオトガイ(Tall chin),幅広のオトガイ(Broad chin)と別々に記載される。
オトガイの陥凹 Chin Dimple#
定義下顎正中部の軟部組織に陥凹がある場合(主観的)(図 64)。
オトガイの水平の皺 Chin,Horizontal Crease#
定義下口唇の直下に存在する水平の折り目もしくは皺(主観的)(図 65)。
H 型の皺 Chin,H-Shaped Crease#
コメントH 型の皺は垂直な皺(Vertical crease of the chin)とは区別されなければならない。
尖ったオトガイ Chin,Pointed#
定義下顎がオトガイに向かい尖っている(主観的)(図 67)。
短いオトガイ Chin,Short#
定義下口唇の下縁からオトガイの下端までの距離が短い(主観的)(図 68)。
コメントオトガイが短くかつ幅が狭いときに,小顎症(micrognathia)と称する。
高いオトガイ Chin,Tall#
定義下口唇の下縁からオトガイの先端までの距離が長い(主観的)(図 69)。
オトガイの垂直の皺 Chin,Vertical Crease#
定義オトガイの軟部組織に垂直の皺がある(主観的)(図 70)。
コメント垂直の皺は, H型の皺(H-shaped crease of the chin)とは区別されなければならない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語Chin,cleft
太い頸 Neck,Broad#
定義正面ないし後方から見たときに頸の幅が広い(主観的)(図 71)。
コメント頸の周囲径を実測すると頸の幅についての客観的な評価が得られる。頸の周囲径は甲状軟骨が最も目立つ部位において,頭部を直立され,前を向かせた状態で水平面に沿って測定する。鑑別診断として翼状頸(Neck webbing)を参照のこと。
長い頸 Neck,Long#
定義頸と肩の接合部から後頭骨の下縁までの距離が長い状態(主観的)(図 72)。
短い頸 Neck,Short#
定義頸と肩の接合部から後頭骨の下縁までの距離が短い(主観的)(図 73)。
翼状頸 Neck Webbing#
定義頸の後方外側に斜めに存在する襞状の皮膚。通常,前方もしくは後方から見て頭蓋骨の乳様突起部から肩峰に広がる(主観的)(図 74)。
コメントこの所見は後方毛髪線の低位(Low posterior hairline)を伴うことが多いが,分けて規定されるべきである。
後頸部皮膚のたるみ Nuchal Skin,Redundant#
コメント年齢があがり,頸部が垂直方向に伸びるに連れ,後頸部の皮膚のたるみは目立たなくなる。頸部は太く見えたり,翼状として見えるようになる。もし皮膚の皺が垂直方向だったり,斜めである場合には翼状頸(Neck webbing)という用語が用いられる。
本アトラスは,American Journal of Medical Genetics
2009年第1号「Elements of Morphology: Standard Terminology」の日本語訳です。
翻訳内容は雑誌「小児内科」42巻8号(東京医学社)に発表されたもので,
東京医学社のご快諾のもと掲載しています。