鼻と人中

鼻と人中

割れた鼻翼 Ala Nasi,Cleft#

定義
鼻翼の端の切込み(主観的)(図 4)。
コメント
鼻翼は鼻の左右の一部あるいは外鼻孔を部分的に取り巻く翼にあたる部分である。鼻翼はたいてい鼻柱の幅とほとんど同じであるが,外鼻孔の形に大きく左右される。症例によっては切れ込んだ鼻翼と記述されることもあるが,著しく未発達な鼻翼であることもあるので注意する。未発達の鼻翼では,外鼻孔を取り巻く組織の連続性は乱れない。一方で,鼻翼裂ではその連続性は保たれていない。生理的に起きた組織の裂け目の遺物が coloboma であるので,coloboma ともいいかえることもできるかもしれないが,鼻翼ではこのような裂け目はもたない。
同義語
切込みの入った鼻翼(ala nasi, notched)
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
鼻翼欠損(ala nasi,coloboma)
低形成鼻翼(Ala nasi,hypoplastic)
参照
図 4 割れた鼻翼図 6 の発育不全の鼻翼との違いに注意。(左と中央の写真は, Dr. Jenneke van den Ende と Dr. Yolande van Bever のご厚意による。)

厚い鼻翼 Ala nasi,Thick#

定義
鼻翼の容積が大きい(主観的)(図 5)。
図 5 鼻翼の肥厚のバリエーションa:正常,b:やや厚い,c:厚い,d:著しく厚い。鼻翼が人中隆起に向かって伸びると,ますます鼻翼が厚くなることに注意。

未発達な鼻翼 Ala nasi,Underdeveloped#

定義
薄く,不完全あるいは非常に弓状に曲った鼻翼(主観的)(図 6)。
コメント
鼻翼は鼻の外側部あるいは鼻孔の翼で,鼻孔の周囲を部分的に取り囲んでいる。たいがいはおおよそ鼻柱の幅であるが,鼻孔の形に大きく左右される。症例によっては cleft ala nasi があると記載されていることもあるが,それは著しく発育不全の鼻孔をもつ。発育不全の鼻翼では,鼻孔周囲の組織は異常をきたさないが,裂けていれば形に影響する。
図 6 発育不全の鼻翼この特徴は,側面像が一番評価しやすい。

広い鼻柱 Columella,Broad#

定義
鼻柱の幅が大きい(主観的)(図 7)。
コメント
鼻柱は下方から観察する。この特徴は,狭い鼻孔(narrow nares)と区別するべきだが,両者は合併することがある。
同義語
幅広い鼻柱(Columella,wide)
図 7 広い鼻柱右の写真では,鼻柱が広いだけでなく,鼻柱の両側の軟組織が増大していることに注意。

高く付着した鼻柱 Columella,High Insersion#

定義
鼻底(nasal base)より上方に鼻柱後方が挿し込まれた状態(客観的)(図 8)。
参照
図 8 鼻柱の高位付着鼻翼の顔への付着が通常より低いのか,鼻柱が高い位置に付着しているのかを判断するのは通常不可能である。

低くぶら下がった鼻柱 Columella,Low Hanging#

定義
横からみて,鼻柱が鼻底(nasal base)の位置より下に伸びている状態(主観的)(図 9)。
コメント
この特徴は,鼻柱が低く付着していてもしていなくても起きる。 Overhanging nasal tipと混同されることがあるが,この 2つは区別して記載されなくてはならない。両者が合併することもある。
同義語
Columella below alae nasi;Columella low
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
丸く湾曲した鼻柱(columella rounded)
図 9 低く垂れた鼻柱左の写真は,鼻柱が低位置に付着していることにも注意。

低く付着した鼻柱 Columella,Low Insertion#

定義
鼻柱の後方部が nasal base よりも下に付着している状態(客観的)(図 10)。
コメント
この特徴は,付着部位が正常な凸の low hanging columellaとは異なっている。短い人中(short philtrum)と関係がある場合があるが,これとは区別記載する。 low insertion は横から観察されたときに最もよくわかる。
参照
図 10 鼻柱の低位付着右側の写真では,正面像で低く垂れた鼻柱とこれを見分けるのは困難であることに注意。

短い鼻柱 Columella,Short#

定義
外鼻孔の前境界と鼻下との距離が小さい状態(主観的)(図 11)。
コメント
これはしばしば押しつぶされた鼻尖(depressed nasal tip)と合併するが,これらは区別して記載する。鼻柱は,単鼻孔(single naris)と長鼻(proboscis)を除いて,常に存在すると考えられているため,鼻柱欠損(absent colu-mella)という用語は削除された。
参照
図 11 短い鼻柱右側の 2 つの写真は同じ児であるが,一番右の写真だけがこの特徴が明らかであることに注意。

上向きの鼻孔 Nares,Anteverted#

定義
外鼻孔が前方に向いている状態。観察者の頭部はフランクフルト水平面で,被観察者の眼と同じ高さで観察する(主観的)(図 12)。
コメント
鼻尖は上向きで,鼻底(nasal base)の上方に位置する。鼻堤と鼻尖の成熟と発育に伴って,外鼻孔はたいてい下向きになる。
同義語
Nasal tip,upturned
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
しし鼻(Pug nose)・Naris,broad:Naris,enlargedを参照
図 12 上向きの鼻

大きな外鼻孔 Naris,Enlarged#

定義
外鼻孔の穴が大きい状態(主観的)。(図 13)
コメント
外鼻孔は典型的には対称的に開いている。安静時に評価されるべきであり,苦しいときに,鼻翼が張り出している状態のときは避ける。外鼻孔は年齢によって変わり,乳児期には丸く,年齢が経つにつれ長くなるということに注意する。
同義語
Naris,broad Naris,flared:張り出した鼻翼(flared naris)という用語は,機能的性質を表すので,ここでは定義されない(Naris,enlargedを参照)。
図 13 大きな外鼻孔左側の写真はわずかに大きいことに注意。この特徴は,普通の表情でみられる。

狭い外鼻孔 Naris,Narrow#

定義
外鼻孔が薄く,スリット上に開いている状態(主観的)(図 14)。
コメント
外鼻孔の形は,Paul Topinard(1830 ~1911)(図 15)により 4 つのタイプに分けられてきた。この分類は一般的には使われない。
同義語
Naris,thin,slit-like
図 14 狭い外鼻孔 2 つの写真では,鼻孔の長軸が異なった方向であることに注意。
図 15 Topinard の外鼻孔分類 2 型が一般的な人種で最もよくみられる形である。

単外鼻孔 Naris,Single#

定義
鼻が外側にひとつ開口している状態(客観的)(図 16)。
コメント
ひとつの孔が正中に開いている場合と,一側に開いている場合とがある。すなわち,対称性である場合と非対称性である場合がある。鼻柱は常に欠損しているが,このことは当然ながら切り離せない。
参照
図 16 単鼻孔中央と左側の写真では,正中に位置しているが,右側の写真では,左に寄っている。右側の写真の患者は,片鼻無形成である。

過剰鼻孔 Naris,Supernumerary#

復元した項目

定義
2 つ以上の鼻がある状態(客観的)(図 17)。
参照
図 17 過剰鼻孔右の写真は,完全な過剰鼻である。

狭い鼻底 Nasal Base,Narrow#

定義
鼻翼が顔面に付着する部位の距離が短い状態(客観的)(図 18)。
コメント
人種によって nasal base の幅は異なる。
図 18 狭い鼻底

広い鼻底 Nasal Base,Wide#

定義
鼻翼が顔面に付着する部位の距離が短い状態(客観的)(図 19)。
コメント
人種によって nasal base の幅は異なる。
同義語
Nasal base,broad
参照
図 19 広い鼻底右の写真は,やや上方から撮られているため,垂れた鼻尖によってほぼ完全な広い鼻底がわかりにくくなっていることに注意。

低い鼻梁 Nasal Bridge,Depressed#

定義
横顔全体に対して,鼻根が後方に位置している状態(主観的)(図 20)。
コメント
depressed という形容詞は,ここでは活動的な過程ではなく,ある状態をさす。低い鼻梁は,鼻梁の幅とは関係なく起こる。また,その幅は独立して評価されるべきである。乳児期は,鼻梁は大人より比較的後ろにある。低い鼻梁という用語は,年齢や人種の典型より後方にあるときのみに使う。
同義語
Protrusion of nasal bridge,decreased; Nasal bridge,retruded;Nasal bridge,recessed; Nasal root,deperssed;Nasal root,recessed
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
しし鼻(Snub nose);Nasal bridge, low;Nasal bridge,flat
参照
図 20 低い鼻梁乳幼児では鼻梁は小児や成人よりも後方に位置しているが,ここでは同年代の子と比較して鼻梁が“低い(depressed)”とした。

狭い鼻梁 Nasal Bridge,Narrow#

定義
鼻の骨梁の幅が小さい状態(主観的)(図 21)。
コメント
狭小化は,鋭く,龍骨型の外観を生じさせる。鼻梁は,年齢とともに狭くなりうる。
同義語
Nasal bridge,thin
図 21 狭い鼻梁中央の写真のように鼻梁だけが狭いときと,右の写真のように鼻梁と鼻堤の両方が狭いときがある。

突出した鼻梁 Nasal Bridge,Prominent#

定義
年齢に比し,鼻根が前方に位置している状態(主観的)(図 22)。
コメント
突出した鼻梁は,鼻梁の幅とは関係なく起こりうる。その幅は別々に評価されなければならない。鼻梁は年齢とともに突出してくる。鼻根は眼と眼のスペースが増えなくても前方へ位置することがあるが,鼻梁の突出は内眼角開離(telecanthus)や両眼間開離(hypertelorism)[Hall ら,2009]と合併することがある。このような所見があるときは,区別して記載する。くぼんだ眼(deep-set eyes)[Hall ら,2009]は突出した鼻梁の印象を与えるが,この所見は区別して記載する。
同義語
Nasal bridge,high
参照
図 22 突出した鼻梁両眼陥凹も合併しているかどうかは判断が難しい。

広い鼻梁 Nasal Bridge,Wide#

定義
鼻梁の幅が広い状態(主観的)(図 23)。
コメント
鼻骨の幅が広い状態と傍鼻組織が豊富な状態を注意深く区別する。広い鼻梁は内眼角開離(telecanthus)や両眼間開離(hypertelo-rism)と区別する[ Hall ら,2009](図 2)。広い鼻梁は,突出しているか平坦かのどちらかで,これらは分けて記載する。
同義語
Nasal bridge,broad
図 23 広い鼻梁

無鼻軟骨 Nasal Cartilage,Absent#

定義
触知できる鼻軟骨が欠失している状態(客観的)(図 24)。
コメント
この特徴は,鼻骨の欠如と合併することがある。鼻軟骨がないと,平らな鼻尖(depressed nasal tip)になることがあるが,これらは区別する。
参照
図 24 無鼻軟骨これは通常,全前脳胞症にみられるが,必発ではない。

凹んだ鼻堤 Nasal Ridge,Concave#

定義
鼻根から鼻尖につながる線が後方に曲っている鼻堤(客観的)(図 25)。
コメント
Depressed nasal bridgeとの違いに注意。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
鞍鼻(Saddle nose);Ski jump nose
図 25 凹型の鼻堤左の 2 枚の写真では凹型の鼻梁と上向きの鼻孔が合併しているが,右の 2 枚の写真では合併していない。

凸の鼻堤 Nasal Ridge,Convex#

定義
鼻根から鼻尖につながる線が前方に曲っている鼻堤(客観的)(図 26)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
わし鼻(Nose,beaked);かぎ鼻(Nose,hooked)
図 26 凸型の鼻堤鼻はしばしば突出して見え,鼻柱は低くみえる。

平らな鼻堤 Nasal Ridge,Depressed#

定義
鼻堤が後方に位置している状態(客観的)(図 27)。
コメント
平らな(depressed)という形容詞は,これは動的な過程ではなく,ある状態をさす。この特徴は横顔で評価する。この所見は,典型的には短い鼻柱(short columella)と関係しているが,区別して評価する。
同義語
Nasal ridge,retruded;Nasal ridge, recessed
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Nose,flat
図 27 平らな鼻堤どの症例も,鼻梁も平坦なことに注意。

狭い鼻堤 Nasal Ridge,Narrow#

定義
鼻堤の幅が減っている状態(客観的)(図 28)。
コメント
狭い鼻堤は鋭い外観であることがあるが,必須ではない。幅について客観的な計測値はない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
つままれたような鼻(Nose,pinched)
参照
図 28 狭い鼻堤鼻梁と鼻底も狭く,そのために鼻全体が狭くみえることに注意。

広い鼻堤 Nasal Ridge,Wide#

定義
鼻堤の幅が増えた状態(客観的)(図 29)。
コメント
この特徴は,正面から評価されるべきである。幅について客観的な計測値はない。この特徴は平らな鼻堤(depressed nasal ridge)の印象を与えるが,これは横顔で評価され,区別す
同義語
Nasal ridge,board
参照
図 29 広い鼻堤 3 症例とも鼻堤と鼻梁が鼻底にかけて広がっている。

2 つに分かれた鼻尖 Nasal Tip,Bifid#

定義
視覚的に評価可能で,鼻尖の縦方向のくぼみ,裂,平坦化(客観的)(図 30)。
コメント
この定義は鼻尖が広いということは必要としないことに注意する。この分け目は,触れればわかるが,触れなくても視診でわかる。鼻尖裂が鼻堤と鼻梁の分け目と続いている場合は,鼻裂(bifid nose)に含まれる。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Nasal cartilages,separated
図 30 割れた鼻尖中央と右の写真では,鼻梁,鼻堤,鼻底がすべて広いことに注意。

広い鼻尖 Nasal Tip,Board#

定義
鼻尖の幅が増えた状態(客観的)(図 31)。
コメント
鼻尖の幅は,鼻翼と鼻尖の前結部で評価される。鼻尖の形がいくらか四角い人では簡単である。鼻の下方から観察する場合が最善のこともある。幅について客観的な計測値はない。関連語として球状の鼻(bulbous nose)を参照。
同義語
Nasal tip,wide
参照
  • Nasal tip,bulbous:Nose,bulbous参照
図 31 広い鼻尖狭い鼻尖(Nasal Tip,Narrow)

平らな鼻尖 Nasal Tip,Depressed#

定義
鼻尖から nasal base までの距離が短い状態(客観的)(図 32)。
コメント
これは,しばしば短い鼻柱(short columella),突き出した鼻尖(overhanging nasal tip),未発達な鼻尖(underdeveloped nasal tip)と合併することがあるが,これらは区別する。
同義語
Nasal tip, retruded;Nasal tip, re-cessed
図 32平らな鼻尖下段の 3 つの写真は同一症例であるが,右側の写真が最もよくわかる。また,下段右の写真では鼻柱が短いが,上段右の写真では目立たない。

偏位した鼻尖 Nasal Tip,Deviated#

定義
鼻尖が中央から片側に位置している状態(主観的)(図 33)。
コメント
鼻尖が偏位していると決定される最少角度はとくにない。軽度の偏位の評価は,観察者の経験に大きく依存している。鼻中隔の偏位は,鼻尖の偏位を合併することがある。
図 33 偏位した鼻尖下からの観察(左写真)の方が,正面からの観察(右写真)よりよくわかる。

狭い鼻尖 Nasal Tip,Narrow#

定義
鼻尖の幅が小さい状態(主観的)(図 34)。
コメント
鼻尖の幅は,鼻翼と鼻尖の前結部で評価される。鼻尖の形がいくらか四角い人では簡単である。鼻の下方から観察する場合が最善のこともある。幅について客観的な計測値はない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
つままれた鼻尖(Nasal tip,pinched)
図 34 狭い鼻尖左の写真では,鼻梁と鼻堤は広く鼻尖のみが狭いが,右の写真では鼻梁も鼻堤も狭い。

張り出した鼻尖 Nasal Tip,Overhanging#

定義
鼻尖が Nasal base の下に位置している状態(主観的)(図 35)。
コメント
この所見は,しばしば長い鼻堤と関係がある。横顔で評価するのがよい。これは平らな鼻尖(depressed nasal tip)と下方に付着した鼻柱(low insertion of columella)とを合併することがあるが,区別して記載する。
参照
図 35 張り出した鼻尖この特徴は,側面から評価されるべきであり,正面から認識される場合は,左の写真のように程度が強い場合だけである。

鼻欠損 Nose,Absent#

定義
鼻のすべての構造がまったくない状態(客観的)(図 36)。
参照
図 36 鼻欠損

鼻裂 Nose,Bifid#

定義
鼻梁,鼻堤,鼻尖が縦方向にくぼんでいる,あるいは割れている,へこんでいる状態(主観的)(図 37)。視診で評価される。
コメント
これはバンドリング用語であるが,実際の場では便利であるため,このまま使う。鼻尖がくぼんでいる,あるいは割れているだけの場合は,鼻尖裂(bifid nasal tip)として記載する。
参照
図 37 鼻裂

球状の鼻 Nose,Bulbous#

定義
鼻の前下側の容積が大きく,球状であること(主観的)(図 38)。
コメント
これはバンドリング用語であるが,実際の場では便利であるため,このまま使う。この大きさと形の変化は,鼻尖に限定されるかもしれないが,鼻下 1/3 が含まれる場合もある。鼻尖の幅が大きいだけの場合は,広い鼻尖(broad nasal tip)として記載する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
じゃがいものような鼻(Potato nose);洋ナシ型の鼻(Pear-shaped nose);球状の鼻尖(Nasal tip, bulbous)
参照
  • Nose,flat→平坦な鼻堤(Nasal ridge,depress-ed)
  • かぎ鼻(Nose, hooked)→凸の鼻堤(Nasal ridge,convex)
  • 大きい鼻(Nose,Large):大きい鼻(large nose)という用語は,バンドリング用語で,突出した鼻(prominent nose),幅広い鼻梁(wide nasal ridge),突出した鼻尖(prominent nasal tip),広い鼻底(broad nasal base)で構成する。これは容易に定めるのは現在,難しくなっている容量の評価を必要とする。突出した鼻はしばしば大きな鼻と誤って記載される。
図 38 球状の鼻

長い鼻 Nose,Long#

定義
鼻根点から鼻下までの距離が,平均の 2 SD 以上あること(客観的)(図 39)。 あるいは明らかに鼻根から鼻底の長さが長い状態(主観的)。
コメント
長さの正常値は文献などにでている
同義語
Increased nasal height
図 39 長い鼻ここでは,鼻の長さが絶対的な意味で増えた状態をさすことに注意。適切な主観的評価を行うには,顔の長さと幅との比較が必要である。

狭い鼻 Nose,Narrow#

定義
鼻翼間の距離が,年齢平均の 2 SD 以下の状態(客観的)(図 40)。 あるいは鼻底と鼻翼の幅が明らかに低下している状態(主観的)。
コメント
鼻の長さは,両鼻翼の最も外側の距離と定義される。狭い鼻(narrow nose)はしばしば,狭い鼻底(narrow nasal base)と合併するが,必ずしもそうではない。また,厚みが減った鼻翼,狭い鼻孔,狭い鼻柱と合併することもある。狭い鼻という用語は,鼻翼間の距離だけでなく鼻尖,鼻堤,鼻梁の減少を示すのによく使われる。このようにバンドリング用語である。これを広く使うのは好ましくなく,むしろ個々の構成要素を記述するべきである。
図 40 狭い鼻

突出した鼻 Nose,Prominent#

定義
鼻下と鼻前の距離が,平均の 2 SD 以上の状態(客観的)(図 41)。 あるいは鼻尖が明らかに前に突出していること(主観的)。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Nose,large
図 41 突出した鼻この特徴は,側面から最もよく評価される。正面像ではあまり突出がわからない。

短い鼻 Nose,Short#

定義
鼻根点から鼻下までの距離が,平均の 2 SD 以下の状態(客観的)(図 42) あるいは,鼻根から鼻尖までの長さが明らかに減っている状態(主観的)。
コメント
長さの正常値は文献などを参照する[Farkas,1981;Zank ら,2002;Hall ら,2007]。鼻の長さは通常,人中の長さと関係がある。鼻と人中は顔の中心部を占め,どちらかが減れば,もう一方が増えるといった反対の変化がしばしば生じる。鼻根点は測定するのが難しいことがあり,そのような場合は,客観的評価のみされうる。計測(客観的)して正常範囲内でも,顔の中心の長さが長いために鼻が小さくみえる(主観的)場合が時折ある。乳児の鼻は通常,大人と比べると,顔の長さに対して短くみえる[Farkas と Munro, 1987]。鼻は生涯発育するが,成人期には鼻堤の長さが増えるが鼻の長さは必ずしもそうではない。これを測定する成人の正常値はない。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
小さい鼻:長さと幅が両方小さい(Nose,small)
参照
  • Nose,small:Nose,short参照
図 42 短い鼻ここでは絶対的な意味で鼻の長さが減っている状態をさすことに注意。適切な主観的評価を行うには,顔の長さと幅との比較が必要である。

広い鼻 Nose,Wide#

定義
両鼻翼間の距離が,年齢平均の 2 SD 以上であること(客観的)(図 29)。 あるいは,鼻底と鼻翼の幅が明らかに増えた状態(主観的)。
コメント
鼻の長さは,両鼻翼の最も外側の距離と定義される。広い鼻(wide nose)はしばしば,広い鼻底(wide nasal base)と合併するが,必ずしもそうではない。また,厚みが増えた鼻翼,広い鼻孔,広い鼻柱と合併することもある。広い鼻という用語は,鼻翼間の距離だけでなく鼻尖,鼻堤,鼻梁の増加を示すのによく使われる。このようなバンドリング用語である。これを広く使うのは好ましくなく,個々の構成要素を記述する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Nose,broad

厚い鼻周囲組織 Paranasal Tissue,Fullness#

定義
鼻に並行した組織の容積が増えた状態(主観的)(図 43)。
コメント
この肥厚(fullness)は,骨と軟部組織の両方によってひき起こされる。これは,広い鼻堤(wide nasal ridge)や広い鼻梁(wide nasal bridge)とは区別する。
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Laterally built up nose
参照
図 43 鼻周囲組織の肥厚左の写真では,肥厚はほんのわずかなことに注意。

長鼻 Proboscis#

定義
柔らかい管状構造物で,通常は顔の正中部か正中部からすこしずれたところに位置する(客観的)(図 44)。
コメント
proboscis は単空洞である[Mc-Grath,1992]。これは,鼻の奇形や,無鼻,無鼻翼と関係がある。
参照
図 44 長鼻

人中の解剖

人中(Philtrum:ギリシャ語で philtron=恋の妙薬[古代ギリシャ人は人中を,人体における最も敏感な性感帯のひとつとみなしていた])は上口唇の正中部にある縦溝で, 2 つの隆起あるいは柱によって境界される。それは,鼻底(鼻下)と粘膜皮膚境界部(上口唇)との間に位置し,鼻唇の距離をも示す。溝と隆起部の下端は,粘膜皮膚境界部の Cupid’s bow の中央を形つくる[ Carey ら, 2009 参照]。

人中の測定

軟組織間の短い距離を測るのは難しく,間違うことがあるために,鼻唇間の距離の測定は正確ではない[ Mehes,1988;Wardと Jamison,1991]。さまざまな集団の人中の長さの正常値についての調査書がいくつか出版されている。それらの論文の一部を表に示す。
表 人中の長さの正常値(一部抜粋)
年齢/方法 国名
在胎 13~42 週/超音波 イスラエル1)
在胎 28~42 週/カリパスまたはコンパス ハンガリー2)
在胎 27~41 週/カリパス 日本3)
在胎 37~41 週/カリパス 日本4)
1 か月~15 歳/カリパス 日本5)
1~18 歳/カリパス アメリカ6)
出生後~14 歳 アメリカ7)
出生後~12 歳/光人体計測 ドイツ8)
出生後~97 歳/透明な硬カリパス スイス9)
1)Gull ら,2005;2)Me´hes,1981;3)Fok ら,2003; 4)Tateishi and Kajii,1992;5)Igarashi and Kajii, 1988;6)Farkas ら,1992;7)Feingold,2001;8) Stengel-Rutkowski ら,1984;9)Zankl ら,2002
理想的には,人中の長さはスライド式の測定器を使って測定するが,実際には,主に透明な定規が使われる[Hall ら,2007]。表情で目印が変わることがあるので,測定は自然体で行う。さらに測定が難しいことに,人種,年齢,性別を考慮する。

解剖学的バリエーション

人中は,量的および質的特徴によって分類される:
  1. 長さのバリエーション:長い,短い
  2. 幅のバリエーション:広い,狭い
  3. 深さのバリエーション:滑らか,深い
  4. まれな外観:テント状,人中の隆起が平行ではない,正中縫線,正中洞

人中(PHILTRUM)

平行ではない人中隆起 Philtral Ridges,Malaligned#

定義
人中隆起が通常の平行な位置にないこと(主観的)(図 45)。
コメント
Hajnis[1972]は,下向きに一点に集まる,下向きに分かれる(台形あるいは三角形),凸状(卵型),凹状の人中の形について述べている。これらの所見はすべて,“不整人中稜(malaligned philtral ridges)”という用語にまとめられて使われる。
図 45 平行ではない人中隆起左の写真では,卵形の人中であるが,右では台形である。

広い人中 Philtrum,Broad#

定義
唇紅縁の直上で計測された人中隆起の距離が,平均の 2 SD 以上あること(客観的)(図 46)。あるいは,人中隆起の距離が明らかに増えている状態(主観的)。
コメント
人中の幅の平均は,乳児では 7 mm
同義語
Philtrum,wide
図 46 広い人中

深い人中 Philtrum,Deep#

定義
鼻底と上口唇の境界との間の正中で,人中隆起が突出し,溝が目立つ状態(主観的)(図 47)。
コメント
押しつぶされた人中(depressed philtrum)という用語は,人中隆起は正常で溝が深い状態を表すのに使われることがある一方,溝は正常で人中隆起が突出している状態とこれを区別するのは難しい[Pashayan,1983]。隆起の高さが正常で溝が明らかに深いという状態はない。
同義語
Philtrum,deep
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Philtrum,depressed
参照
図 47 深い人中

長い人中 Philtrum,Long#

定義
鼻底と上口唇の粘膜皮膚境界中央との距離が,平均の 2 SD 以上ある状態(客観的)(図 48)。あるいは,この距離が明らかに増えた状態(主観的)。
コメント
人中の長さは通常,鼻の長さと関係がある。人中と鼻は顔の中心部を占め,どちらかが減れば,もう一方が増えるといった反対の変化がしばしば生じる。したがって,長い人中は短い鼻(short nose)としばしば合併するが,別々に記載する。
図 48 長い人中ここでは,絶対的な意味で人中の長さが増えている状態をさすことに注意。適切な主観的評価を行うには,鼻の長さとの比較が必要である。

正中縫線状の人中 Philtrum,Midline Raphe#

定義
人中の正中溝が狭い状態(客観的)(図 49)。
コメント
堤はわずかに隆起していることがある。
図 49 人中の正中縫線

正中洞のある人中 Philtrum,Midline Sinus#

定義
人中の正中溝にくぼみがある状態(客観的)(図 50)。
コメント
口唇の先天洞は一般的には下口唇にみられるが,まれに上口唇の人中にみられることがある。普通,鼻柱の付着部に近いところにみられる[Asahina,1997]。
図 50 人中の正中洞(下段の 2 枚の写真は,Dr. Alan Fruer の厚意による。)

狭い人中 Philtrum,Narrow#

定義
上口唇の朱色境界の直上で計測される人中隆起間の距離が平均の 2 SD 以下の状態(客観的)(図 51)。あるいは,その距離が明らかに小さい状態(主観的)。
参照
図 51 狭い人中

短い人中 Philtrum,Short#

定義
鼻底と上口唇の粘膜皮膚境界中央との距離が,平均の 2 SD 以下である状態(客観的)(図 52)。あるいは,この距離が明らかに減った状態(主観的)。
コメント
鼻柱は通常,鼻底に付着している。下方に付着した鼻柱(low insertion of colu-mella)だと人中は短くなるが,これらは区別して記載する。鼻柱の付着部を人中の上限として使うと,偽の短縮となってしまうであろう。外側にめくれ上がった上口唇(everted upper lip)はしばしば主観的に短い人中とみなされるが,これらは区別して記載する。
参照
図 52 短い人中

平坦な人中 Philtrum,Smooth#

定義
平らな皮膚表面で,鼻底と上口唇の朱色境界の間の上口唇中央に隆起構造がない状態(主観的)(図 53)。
コメント
この所見には,まったく人中隆起がない状態から,いくらか隆起している状態まで,スペクトラムがある。滑らかな人中の度合いについての正常値が利用できる[Queisser-Luft ら, 2001]。胎児性アルコール症候群の評価[Astley と Clarren,1995]で使われる人中の滑らかさの段階づけは,わかりやすくなっている(図 54)。この所見は,顔の表情によって大きく影響されるため,通常の状態で評価されるよう,注意する。平坦な人中は長い人中(long philrtum)と関係がある場合がある。しかし,この 2 つの所見は区別して記載する。
同義語
Philtrum,flat
過去に使われたが言い換えが望ましい用語
Philtrum,indistinct;Philtrum,simple
図 53 平坦な人中下段の写真の表情では,滑らかな人中と誤解を与えるが,中央の写真の同一人物のニュートラルな表情では,人中ははっきりしている。
図 54 人中の滑らかさの分類上段は白人,下段はアフリカ系アメリカ人[ Astley と Clarren,1995]。グレード 4 と 5 が滑らかとみなされる。

テント状の人中 Philtrum,Tented#

定義
鼻柱を頂点とし,三角形に人中の軟組がテント状に突出した状態(主観的)(図 55)。
コメント
テント状の人中は,平坦な人中(smooth philtrum)と合併することがあるが,区別する。
参照
図 55 テント状の人中

本アトラスは,American Journal of Medical Genetics 2009年第1号「Elements of Morphology: Standard Terminology」の日本語訳です。 翻訳内容は雑誌「小児内科」42巻8号(東京医学社)に発表されたもので, 東京医学社のご快諾のもと掲載しています。